翼はもうはばたかない
その6


















真実が正しいとは   かぎらない





















おばあさんに教えて貰ったところは山の中だった。

今はもうない琥珀川の湧き水、という事で自然を荒らされないようにハイキングコースが作られていた。

それに沿って歩いて行くと――――柵によって作られた広場が見えてきた。

遮られている向こうに――――その湧き水はあった。

柵から身を乗り出して見つめる。

「‥‥‥枯れかけてる‥」

岩の間から流れ出る水は、今にも止まりそうだった。











「‥‥分かったか?」

背後からの声にも、千尋はもう驚かなかった。

「‥‥‥‥あの」

千尋は柵をぎゅっと握りしめた。

「あの、わずかに流れている湧き水‥‥‥あれがあるから、ハクはこの世界に存在出来てたんですね」

「そうじゃ」

河の神が、老人の姿で立っていた。

あの湧き水は昔は琥珀川に流れ込み、川を形成していたに違いない。

「‥‥たった‥たったこれだけの水が‥‥」

これだけの水がハクをこの世界にとどめていたなんて。

「もちろんこの水だけではコハクは存在できん。一番大きいのはそなたのコハクへの想いじゃろう」

でも、想いだけでも存在出来ない。

千尋は河の神に振り返った。

「もし‥‥もしこの水が涸れてしまったら、ハクはどうなるんです?」

聞きたくない。

でも、聞かなきゃならない。

そして―――――私は、覚悟も決めなければならない。







「この水が涸れれば、コハクも消える。コハクをこの世界につなぎ止める一番の根本なるものが消えてしまうのじゃから」












気がつけば、千尋はハクのいる森の前に立っていた。

もう日はとっくに暮れている。

早く家に帰らなければ両親が心配するだろう。

「‥‥‥‥ハク‥‥」

千尋は胸をぎゅ‥‥とおさえた。



どんな顔をして会えばいいんだろう。

ハクがいずれはいなくなる―――それも、そう遠くない未来に。

それを知っていて、笑って会う事なんて出来る筈がない。



この森の奧では、きっとハクが待っている。

今日は姿を見せなかったから、心配しながら待っているはず。




「――――ハク‥‥‥」

会いたい。


会えない。





目が覚めて全部夢だったらいいのに。













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