翼はもうはばたかない
その17
真実が知りたい ただそれだけ |
ふと気配に気がついて、銭婆はカオナシに目で合図を送った。 カオナシが頷いて、扉を開ける。 「‥‥お久しぶりです」 そこには、長い髪をなびかせたハクが立っていた。 「本当に久しぶりだね。こちらの世界に戻ってきて以来‥‥くらいかねぇ」 「‥‥そのくらいだと思います」 紅茶を出したカオナシに、ハクは微かに会釈してありがとう、と挨拶を返す。 その様子に、銭婆が声を漏らした。 「‥‥驚いたね。感情が戻って来たというのかぃ」 「‥‥‥‥‥」 その言葉には答えず、ハクは出された紅茶を口にした。 「ここに来た理由は判ってるよ、ハク」 かちゃん‥‥とカップを置き、ハクは銭婆に視線を向けた。 「‥‥‥‥あの少女は、千尋の生まれ変わりなのでしょうか?」 銭婆は紅茶を一口飲んでニィ‥と笑った。 「おまえがそう思うなら、そうなんだろうねきっと。思い当たる節はあるんじゃないかぃ?」 逆に問われ、ハクは黙り込んで下を向いた。 「‥‥記憶を抱いて生まれ変わってくる事があると思いますか?」 魂を持たない神は、一度死ねばそれきり――――だが、人間は何度も生まれ変わる。 生まれ変わって来た魂は、記憶も何もかも失って生まれてくる。それが普通。 しかし―――明らかに千裕は、前世の千尋の記憶の断片を抱いて生まれてきている。 そう。 紛れもなく、千裕は千尋の生まれ変わりなのだ。 「――――さぁねぇ‥‥私には分からないね」 銭婆は遠くに思いを馳せるように、宙を見据えた。 つられるように、ハクも宙に視線を向ける。 「けど、ハク竜」 呼ばれて、ハクの瞳が銭婆に向けられた。 「‥あんたは、「今」を見ていないね」 「‥‥今、ですか?」 「そう。「今」だ。まだあんたは過去に生きている。過去を追っても、どちらも辛いだけだよ」 ハクは返事を返さなかった。 |