翼はもうはばたかない
その28
永遠を望むのは 罪なことだろうか |
「千裕の寿命を延ばすのはできない事ではない筈です。そういう儀式もある事を私は知っています!」 そうまくしたてるハクを、湯婆婆は鼻で笑い飛ばした。 「そんな事じゃないよ。もちろん儀式は可能だ‥‥けど、それに千裕自身が耐えられない。私はそう言ってるんだよ」 えっ‥‥とハクが千裕を見る。 千裕は驚きを隠せない顔で―――ただハクを見つめていた。 千裕自身も知らなかった事。 だが契約を結んだ時に、湯婆婆は千裕が発する気が弱いのに気がついていた。 坊が密かに千裕を呼びつけては話をしつつ、千裕の様子を色々と探りを入れて――― そこで出た結論は――――千裕の気が常人よりも弱い、ということ。 それはつまり、長くは生きられないという事でもあった。 今は湯屋という、有る意味清浄な場にいるからこそ、異変も何も感じていないだろうが、それは少しずつ体に現れてくるだろう。 「‥‥ど、うして‥‥」 ハクは言葉もなく、ただ呆然と呟いた。 「わからないね。たまたま生まれついたのがそうだったのかもしれん。私にはわからないよ」 普通の人間であったならば、何事もなければ80年ほどは生きるだろう。 しかし、目の前の少女にはそれすらも許されない。 「もって、後1年くらいかね」 その真実を聞かされて、ハクも自分の心を保つのが精一杯で。 だから気がつかなかった。 自分の未来をいきなりこういう形で告げられた千裕が、どのくらい傷ついたかということを。 次の日。 千裕の姿が消えている事にリンが気がついたのは、昼もかなり過ぎた時だった。 千裕がいなくなった、と聞いてハクが真っ先に思い浮かんだ場所は、銭婆のところだった。 この湯屋以外で千裕が頼れる場所といえば、そこしかない。 問題はどうやって向かったか‥‥という事だが。 その答えはすぐに出た。 「銭婆のところに行くと言うから、この前購入したばかりの電車の切符を千にやったぞ」 釜爺の言葉で、ハクは千裕が銭婆のところにいると確信した。 「随分と落ち込んでいるようだったが‥‥何かあったのか?」 釜爺の問いに、ハクもすぐに答えられなかった。 「‥‥帰ってきたら、話します」 竜となれば、銭婆のところへは半時ほどでたどり着く。 確かに、千裕の気配がある。 ハクは人の姿に戻ると、すう‥と深呼吸して、扉をノックした。 「開いてるからお入り」 銭婆の言葉を確認して、ハクは扉を開けて――――中へと入っていった。 |