下剋上
その2

19000HIT キリ番作品




「はじめはここで話をしておったんだが、ワシの秘蔵の酒を見つけてのぅ‥‥‥」

この有様だ、と釜爺が見せた一升瓶の中身は、5分の1にまで減っていた。

「こ、これだけ一人で!?」

さすがにハクも青ざめて千尋をのぞき込む。

「せっかく仕事あがりに飲もうと思っとったのに‥‥」

また買いにいかせなきゃならん、と釜爺はぶつぶつと愚痴をこぼしている。

「そんなこたぁ後でオレがやってやるよ! で千は大丈夫なのか?」

ハクが千尋を抱き起こし、頬を軽くぺしぺしとたたいた。

「千尋、千尋‥‥‥大丈夫か?」

と。

突然千尋がぱちっと目を開けた。

その目覚め方はホラー映画も真っ青で。

その異様さにハクは「うっ」とつまった。

「‥‥‥千尋?」

目がすわっている千尋に、ハクはできるだけ優しく話しかけた。

「‥‥‥なんら、ハクらのれ」




呂律も回っていない!!!!



千尋はぐっとハクの胸元を掴んだ。

「らいらいね!! あらひはここに働きにきてるのら!!! いっひょーけんめい働いているのら!!! 毎日がんばってるんらぞ―――――!!!」

その様子にリンもさぁーっと青ざめた。

「お、おい‥‥すっかりできあがってんじゃん‥‥千‥‥」

「‥‥酒乱とはおもわんかったのぅ‥‥」

「釜爺もとめろよ!!」

「話をしながらじゃったからのぅ‥‥ついつい見逃してしもうて」

そんな話も耳に入らず、ハクはただ千尋に胸ぐらを掴まれたままである。

「ハク!! きーてるろか!!!」

「あ、ああ‥‥聞いてる聞いてる‥‥」

「その言い方はきーてら―――――い!!!」

千尋はハクからぱっと手を離すと、すっくと立ち上がった。

「千尋?」

「‥‥‥のみなおす」

いつもの可憐(ハク視点なので5割増)さはどこへやら、妙にたくましく仁王立ちになった千尋は、よろよろっとした足取りでいきなり外への扉に向かい始めた。

「お、おい! 飲み直すって、湯婆婆に見つかったらやっかいだぞ!」

「外にいって飲み直すのら!!!」

裸足のままずんずんと歩き出す千尋に、ハクはとっさに釜爺が持っていた酒瓶を手にとった。

「おじいさん、ちょっと借ります!」

「あ、な、なにをするっ」

ハクは酒瓶に手のひらを当て、目を閉じて何かを念じた。

と、底をつくほどに減っていた中身が、見る間に瓶の口からあふれんばかりに増えていく。

「そうか、元河の神だから、水や液体を扱うのはお手の物か‥‥」

「千尋!」

ハクは中身の増えた瓶を千尋に見えるように掲げた。

「お酒ならここにあるから、外に行ってはだめだ!」

あんな足取りではまずあの階段からおっこちるのがオチだ。

それならここにとどめておいたほうがまだマシというもの。

と思ったハクの作戦だったのだが。



「‥‥‥おさけ‥‥」



くるーり、と振り返った千尋は、すでに人間の動きではなかった。

さながら、ゾンビのよう。

その様子に、ハクのほうがじりっと後ずさる。

「ハク―――――っ!!! それっ、よこひなはい〜〜〜〜〜っ!!!!」

いきなり飛びかかってくる千尋に、ススワタリたちが悲鳴をあげて逃げ回る。

とっさにハクは酒瓶を抱えて後ろに飛びずさったので、千尋はハクのいた場所にびたんっと落ちてしまった。

「‥‥い、今のは鼻打ってるぞ、絶対‥‥‥」

リンと釜爺はすでにすみっこに待避している。

「‥‥ハクぅ‥‥なんれ逃げるのら‥‥‥‥」

ゆら〜〜り‥‥と起きあがり、千尋は鼻の頭を赤くしたまま、一歩一歩ハクへと近づいていく。

「ち、千尋‥‥落ち着いて」

これが坊やカオナシだったら魔法で撃退するところだが、さすがのハクでも千尋相手にそれはできない。

「それ‥‥よこせ〜〜〜〜〜!!!」

千尋が酔っぱらいとは思えないほどのすばらしい脚力で床を蹴り、ハクに飛びかかった。







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