かごめかごめ
その3









「ハクっ!! 無事だったのっ‥‥‥!」

駆け寄った千尋はハクの体を抱きしめようとして―――――自分の手がハクの体をすり抜けた事に愕然とした。

「‥‥ハク‥‥‥?」

まさか。

――――まさか‥‥!


「‥‥大丈夫。これは姿を映しだしているだけ。私自身は囚われているために、動けないんだ」

千尋の焦りを感じ取ったのか、ハクはそう語りかけてきた。

「ハク‥‥一週間もどうしたの‥‥囚われてるって、一体何があったの‥‥!?」

ハクは視線を伏せた。

「‥‥屋敷にまでたどり着いたはいいんだけど、そこに仕掛けてあった封印に囚われてしまったんだ。人間には全く効力を及ぼさないが、それ以外のものには効力を発するものにね‥‥」

千尋は言葉もなく、ただハクを見つめている。




ハクが千尋に手をさしのべてくる。

「‥‥千尋、力を貸して欲しい。千尋が来てくれれば、私はここから出られるんだ」

「え‥‥」




ハクが千尋に頼み事をして来た事はなかった。

いつも千尋の方から持ちかけて、それをハクが受け入れるというパターンが多くて。

こんな風に頼んでくるという事は――――それだけハクが追いつめられているという事。

「行くわ! すぐに行くから‥‥今どこにいるの!?」

「‥‥ここから二つ山を越えた森の中にある、洋館だ‥‥薔薇の館と呼ばれる洋館で、赤い屋根だからすぐに分かるよ‥」

そこまで伝えると限界が来たのか、ハクの姿が薄れ始めた。

「ハク‥‥!!」

「待っているから‥‥千尋‥‥」

その言葉を最後に、ハクの姿は消えた。

暫く宙を見据えていた千尋だったが―――やがてドタバタと部屋へと駆け上がっていった。








服を着替え

あわただしく髪を結い上げ

お守りの髪留めで髪をとめる。

お財布の中身を確かめると、千尋はとるものもとりあえず部屋を飛び出した。




「‥‥まだ夜中よ‥‥何してるの、千尋!」

皆寝静まる時刻に響く音に、母親が起き出して来た。

「ハクが‥‥ハクが大変なの! ちょっと行ってくる!!」

「行ってくるって‥‥千尋、まだ夜中よ、何処へ行くっていうの!!」

母親の声を無視して、家を飛び出す。



薔薇の館と呼ばれる洋館が何処にあるのかなんて知らない。

まずは派出所にでも行って場所を聞いて――――それからになるだろう。

今日中にハクの元にたどり着けるかどうかなんてわからない。

でも。

黙ってじっと待っているのはもう出来なかった。



ハク、待ってて。

――――今、行くから。











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