かごめかごめ
その5








バターン!!






「きゃああ!!」

響き渡る音に千尋は飛び上がった。

今開けっ放しにしておいた筈の扉が、閉じている。

慌てて扉に飛びついてあけようとするが、さっきは簡単に開いた筈の扉がビクともしない。

「ウソ‥‥‥閉じこめられた‥‥」

とたんに不安が沸き上がってくる。

窓に板が打ち付けられているために、外の光が全く入って来ない。

それでもじっとしていると、だんだん目が慣れてまわりの様子がわかるようになってきた。

「‥‥‥‥‥‥」

ここは正面エントランスのようで、真正面に大きい階段がある。

右、左と視線を巡らすと何処かに続いているのが分かった。


「‥‥ハクぅ‥‥」

おそるおそる呼びかけてみるが、やはり返事はない。

「この何処かにハクがいるのは確かなんだよね‥‥‥」

自分の声が異様に大きく響いて、千尋は肩をすくめた。

「‥‥調べてみなきゃ‥‥」

いちいち行動を自分で口に出して無理矢理自分を安心させると、千尋はまず2階を調べようと階段を上り始めた。





登り切ると、左右に長い廊下が続いていた。

まるでホテルのように同じような扉が続いている。

「こんなにあるのぅ‥‥‥」

一つ一つ調べなきゃいけないんだろうか。

こんな時ハクだったら気配をたどるのだろう。

しかし普通の人間でしかない千尋にそんな力がある筈もない。

とりあえずは、と手短かな扉に手をかける。


もしそこに鏡があれば、あのお守りの髪留めが光を放っている事に千尋も気がついた筈だった。






ギィィィィ‥‥‥と音をたてて、扉が開く。

中は暗くてよく見えない。

中を探ろうと一歩踏み出す。


そのとたん、部屋の中が明るく照らされ、おいてある洋風の椅子やベッド、机、戸棚、その全てがガタガタと動き始めた。

「きゃあああああ!!!」

緊張がピークに達していた上に突然の物音に、千尋は大パニックを起こして部屋から飛び出した。








廊下の突き当たりまで走ったところでようやく立ち止まり、はぁはぁと息をつく。

「い、今の何だったんだろ‥‥」

湯屋での経験と魔法を日常的に使うハクの存在とで、多少はこういう事にも慣れている。

慣れている筈だったが‥‥いざ遭遇するとやはり驚く。

テレビで見たポルターガイストという言葉が脳裏にちらついて、慌ててぶんぶんと首を横に振る。

「は、早くハクを探さなきゃ‥‥‥」

また一番近い部屋の扉にそっと手をかけ、おそるおそるあけていく。

扉はすんなりと開いた。




さっきの部屋と同じような部屋だった。

家具の配置もあまり大差ない。

さっきのポルターガイストを思い出してそぅっと覗き込んでみる。


今度は何も起こらなかった。



「や、やっぱアレは気のせいよ‥‥ね‥‥」

そう思いこむ事で何とか恐怖を克服しようと試みている千尋であったが。

「‥‥‥‥!?」




ぽつん‥と何かが首筋に落ちた。

それを指で触ってみると


「‥‥血っ‥‥」

はっ‥と上を見る。


天井が、血に染まっていた。





「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


既に悲鳴をあげる余裕もなくし、部屋を飛び出す。

どんっ!

千尋は何かにぶつかって尻餅をついた。

「いたっ!」

「大丈夫!?」

したたかに打ち付けた腰を撫でつつ千尋が視線を上に向けると。


―――――ハクが立っていた。










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