かごめかごめ
その6









「ハク!!!」

ハクが立っている。

家で見た、あんな心許ない姿ではなく。

ちゃんと実体をもった姿で。


―――――ああ、無事だったんだ‥‥。

そう思ったとたん、涙が出てきた。





「そなたがこの屋敷に入って来たのを気配で感じたんだ。そのおかげで出られたんだよ」

千尋が何処にいるのかまではうまく探せなくて‥‥とハクは付け足し、千尋に手を差し出した。

「遅くなってごめん。怪我はない?」

ハクが差し出して来た手をとり、立ち上がろうとする。





キィィン‥と頭に痛みが走った。

針で刺すかのような痛みに思わずまた座り込む。

「いたっ‥‥」

「何処か、痛いの?」

「ん‥‥大丈夫‥‥ちょっと頭が痛くて」

「この屋敷の空気に触れたからかな‥‥こっちにおいで」

ハクが心配そうに覗き込み、千尋の肩を抱きかかえる。




また痛みが走った。



――――なんで?

どうして‥‥ハクが触れると痛みが走るの?


千尋がはっとハクを見上げると、ハクは不思議そうに見つめ返して来た。

「どうしたんだ‥‥さ、早く立って。ここにいてはいけない」

ハクがもう一度千尋の手をとった瞬間


ぱぁぁっ‥‥と、千尋の髪留めが光を放った。





「‥‥‥‥‥!!!」

「きゃ――――!!!」


あまりのまぶしさに千尋は目を覆った。



そして唐突に光が消え、おそるおそる目を開けると。

ハクの姿は何処にもなかった。


「‥‥え‥‥ハク?」

立ち上がり、ハクの名を呼びながらあたりを見回す。

「ハク、どこ?」



――――普通の娘と侮っていたか。


その声にはっと振り返り、千尋はその場に硬直した。



廊下に浮かぶ、女の影。

いや、女というにはまだ若い、少女。

生きているうちはきっと美少女だったと思われるその顔の半分は血に染まり。

その表情は憎しみに彩られている。





――――――20年ほど前に殺人事件があったらしいよ。




ここを教えてくれた人の言葉が脳裏によみがえる。


つまり。

これは。

どう考えても――――――



殺人事件の被害者。



そう思い当たった時、悲鳴をあげずにすんだのが奇跡だった。











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