かごめかごめ
その7
――――殺しはしない。おまえにはまだ利用価値がある。 「り、利用価値‥‥‥?」 その言葉に、千尋ははっとその亡霊を見つめた。 「さっきいたハクは‥‥偽物ね!?」 その亡霊と距離をとるようにしてあとずさる。 「‥‥ハクはどこ? ハク、いるんでしょ!?」 千尋の問いには答えず、亡霊は手を伸ばして来た。 「や、やだ‥‥近寄らないでっ!!」 千尋はそのままきびすを返して走り出した。 とにかく逃げなきゃ。 何処に? 玄関の扉は開かない。 逃げ場所は何処にもない。 とにかく、今この亡霊から逃げられればそれでいいから! 長い廊下をひたすら突っ走り、まだその上に登る階段を駆けあがって、すぐ近くにある扉に飛びつく。 がちゃがちゃと揺さぶると、扉は思ったよりも簡単に開いた。 中にあるか確かめもせず飛び込んで、千尋は扉をしめて体で扉をふさいだ。 「‥‥はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥」 冷や汗と走った事による生理的な汗とを拭い、そっと外の様子をうかがう。 扉をしめたくらいで亡霊が防げるのかどうかはわからないが、今はただ身を隠すのに精一杯。 そのまま息を殺して暫く外をうかがっていたが―――――中に入ってくる様子も異常も何もない。 少し息をついてもいいだろうと千尋はほっとため息をついて、ようやく部屋の中に視線を向けた。 寝室のようで、洋風の可愛らしい雰囲気の壁紙や家具が揃っている。 もしかしたら、この家に住んでいた誰かの私室だろうか? 花柄の壁紙に、ピンクのレースがついたカーテン。 くまのぬいぐるみ。 アンティークな人形。 見る者を安堵させる空間がここにはあった。 窓から入る光が優しく部屋を映しだしている。 キョロキョロと見回すと、花瓶に薔薇の花が生けてあるのが目に入った。 さっき館で見た薔薇の花と同じ、真紅の薔薇。 でもここで見るとそう怖くもないのはどうしてだろう? 昨夜ハクの姿を見てからこっち、千尋はずっと緊張し通しだった。 そんな千尋を優しくこの部屋は包み込んで来る。 「‥‥ふぁ‥」 ハクを探さなきゃ。 そう思うのに体はベッドに倒れ込んでいた。 ―――――眠りなさい。 何かがそう語りかけてくる。 そして 千尋はそれに抗えなかった。 |