かごめかごめ
その9









「ハク――――!! 何処―――!?」

どうせ危険なのなら派手に動いた方が早く見つかる。

「ハク―――――っ!!」

口に手を当てて大声で叫ぶ。



それを何度か繰り返すうちに、千尋は自分のまわりに嫌な空気が集まりだしたのに気がついた。

黒い霧のようなものが千尋の前に集まりつつある。

「‥‥‥来たわねっ」

さっきの亡霊が来ているのだろうか。

千尋はぐっとおなかに力を入れて、自分の前に集まりつつある黒い霧を睨み付けた。





―――――千尋!!



「‥‥ハク!?」

千尋は弾かれたように上を見上げた。

今、確かに声が聞こえた!



直感で、千尋はすぐそこにあった扉の取っ手を掴んだ。



ここに、ハクがいる。

ハクからの声は、ここから聞こえた!!







勢いよく扉を開ける――――――

そこには



「‥‥千尋‥‥っ」

部屋の真ん中に立ちつくしている、ハクの姿があった。













「ハク!!」

ハクがいる。

驚いたようにこちらを見ているハクは―――本物だ。

思わず近寄ろうとした千尋に

「近づくな!!」

ハクが厳しい口調で叫ぶ。

千尋はびくっと身をすくめ、ハクを見つめた。

「‥‥どうしてここに‥‥」

ハクは信じられない、といったようにかぶりを振る。

「‥‥そうか、呼び込まれたんだね‥‥?」

千尋が答えるよりも先にハクは自分の中に答えを見つけたらしく、1人頷き――――そしてはっと頭上を見上げた。

「まずい‥‥!」

「え、な、何が‥‥」

ハクはその場から動こうとせず、千尋にきっと視線を向けた。

「ここから出るんだ。今すぐに!」

「で、でも‥‥」

ハクがせっぱ詰まっているのが分からず、千尋はただオロオロするばかり。

「春日(はるひ)!」

知らない名。

そのとたん―――千尋のまわりを優しい気配が囲むのが分かった。

「千尋を‥‥頼む」

『分かりました。主様の御心のままに』




その優しい言葉の響きが、鏡に映っていたあの少年と重なる。

そうか‥‥あの男の子、春日って言うんだ。





『早くしなきゃ』

姿は見えないが、声が千尋を促す。

『那衣(なえ)に見つかったら‥‥‥』


「那衣?」

千尋がそう聞き返した瞬間、部屋の中が激しく揺れ始めた。









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