かごめかごめ
その11










「ハク!!」

今までの緊張から一気に解き放たれて、千尋はハクに抱きついた。

ハクも千尋をぎゅっと抱きしめる。

「千尋‥‥無事か?」

「うん‥‥大丈夫‥‥‥何処も何ともない」

「そう‥‥それなら良かった‥‥‥」

ハクは千尋からすっ‥と手を離した。

「‥‥ハク?」

「‥‥後は、春日の言う通りにおし。彼ならばこの屋敷を抜け出す方法を知っている‥‥から‥」



ハクはその場にそのまま崩れ落ちた。










「ハクっ!!」

千尋が慌ててハクを抱き起こす。

「っ‥千尋‥‥はやく‥‥っ」

言いつつハクは口に手をあてて激しく咳き込んだ。

その指の間から鮮血が流れ出てくる。

「し、喋らないでっ! 早く、早くこの屋敷を出て、病院にいこ!? ね!?」

何とかハクを立たせようとするが、完全に力を使い切ってしまったらしいハクの体を、千尋では支える事が出来ない。

「‥‥はやく‥‥お行き‥‥」

「いや!!! 絶対にいや!!!」

泣き叫びながら千尋はぐったりしたハクの体の下に潜り込み、下からぐっと押し上げてハクの体を背負い込んだ。

「ち‥ひろっ」

「絶対にやだ‥‥‥ハクを見捨てるくらいなら、私もここに残るんだからっ!」



よろよろっと歩き出した千尋に、あの声が――――春日が語りかけてきた。



『あの部屋に主様を運んでください。あそこに那衣は入れない』



姿の見えない春日に頷き、千尋は一歩一歩よろけつつも確実に歩き出した。

ハクを救う為に。

この屋敷から生きて出る為に。













ようやくあの部屋にたどり着きハクをベッドに寝かしつけた時には、ハクは意識を失っていた。

呼吸は安定しているから、すぐにすぐどうなるという訳でもなさそうだが―――決して予断は許さないだろう。

「ハク‥‥‥」

『大丈夫‥‥‥あの魔法陣を破るのに力を使い果たされただけだから』

ぐったりとしたハクの服についた血をハンカチで拭き取っていると―――春日の声がそう千尋に伝えて来た。

「ハク‥‥大丈夫なの‥?」

『今のところは。でもその体で那衣に抗うのは無理だ‥‥本当に死んでしまう。ここにいる間は大丈夫‥‥ここは生前は那衣の部屋だったところ‥‥那衣はここには入れない』

千尋はとりあえず血を拭き終わると、姿の見えない春日を探すように視線を巡らせた。



「どうして‥‥春日さんの姿は見えないの? あの‥‥那衣っていう人の姿は見えるのに」

沈黙が続き――――ややして、春日から返事が返って来た。

『‥‥那衣は既に悪霊と化してしまっているから。だから‥姿を現す事が出来るんだよ』

鏡の前に―――という春日の言葉に頷き、千尋があの鏡の前に立つと。


千尋の姿に重なるように―――春日の姿が映し出されていた。










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