かごめかごめ
その12









『僕と那衣は従兄弟どうしだったんだ。――――もう20年以上も前だけど』




昔、春日と那衣は、春日の両親とともにここに住んでいた。

春日の父親が画家であった為に

そして早くに両親を失った事で酷く精神的に脆くなった那衣の為に

家族は街から隠れるようにしてこの屋敷に住んでいた。



きっかけは些細なこと。

もう昔の事で春日自身も、そして那衣自身も思い出せないであろうこと。

だけど



『何かのきっかけから、那衣は黒魔術に手を出した。人に呪いをかけ―――他者に危害をくわえる術を』



ハクが眉をひそめた。

「‥‥人間にそれだけの術を公使出来るとは思えない‥‥ヒトが許容出来る魔力には限界がある筈だけど‥」

『そう‥‥限界がある。人間には人間にしか出来ない事がある。それを―――那衣は越えようとしたんだ』



限界を超えた力を手に入れる為には代償が要る。

『その代償は彼女自身』


ハクが納得したというように息をついた。

「――――悪鬼に取り込まれたか」

千尋はぎゅ‥とハクの服を握りしめた。





悪鬼に取り込まれ人間ではなくなった那衣は、正気を失ったまままわりの人間を生贄に捧げていった。

春日も、春日の両親も例外ではなかった。

肉体を捧げられ、食らいつくされた後も魂はここに残ってしまった。

そして――――終末は来た。




―――身近な大切な者を生贄と捧げられてしまったのが那衣の所為だと知った近所の住人たちが、復讐に出たのだ。

それが20年前の殺人事件。

犯人は警察によって逮捕され、既に刑も実行された。

しかし、殺されてしまった那衣はまだここに残っている。








「‥‥春日さんて、那衣さんの事好きなの?」

千尋の何の気なしの言葉に春日が言葉を失う。

『あ‥‥その‥‥』

「そうなんでしょ? だって‥‥こんな風になっても那衣さんの事心配してる」

春日は暫く黙っていたが、やがて曖昧に『そうかもしれない‥』と答えてきた。

『主様や千尋さんを助けたのも‥‥本当は、那衣を助けたかったためかもしれない‥‥』








取り込まれてしまった者を助ける方法などあるのだろうか。

千尋がそれをうんうん唸って考えている隣で、ハクが全然違う事を言いだした。

「那衣は私の力を取り込んで、より強い力を得て復讐をするつもりだったんだな」

『はい‥‥しかも、もっとも強い時の力を。‥‥主様の力は千尋さんに対して働く時にもっとも強くなるのです』



「‥‥‥え」

千尋は呆然とハクと―――そして見えない春日を見つめた。

「‥‥だから、逃げろって言ったの?」

私がいると、ハクは私を守ろうとして無理をする。

それこそ、自分の危険は省みず。


さっきも

私を助ける為に―――ハクは無理矢理魔法陣を破った。

その結果凄く傷ついて―――――



「千尋、泣かないで」

知らず知らずに涙を浮かべる千尋のまなじりを、ハクの指がそっと撫でる。

「でもそのおかげで私はあの魔法陣から出られたのだから」

「でも‥‥でも‥‥」

ぐしぐしと泣き出す千尋を困ったようにハクが慰める。

「大丈夫‥‥‥少し休めば良くなるから」

「‥‥うん‥‥」







辺りの雰囲気が変わった。

千尋が感じ取ったくらいだから、ハクや春日は痛いほどに感じていることだろう。

「‥‥!!」

特に―――ハクは、千尋が初めてみるほど焦り、狼狽している。

ハクは慌てたように窓に飛びついて、窓を開けた。







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