風邪の功名
その2

9000HIT キリ番作品






意識がゆっくりと浮上してくる。

重たい目覚めに千尋は瞼を閉じたまま少しだけ大きく息をついた。

肌は熱いのに体の芯は寒い。

せんべい布団ではとても熱をとどめる事が出来ないのか千尋はふるふると小刻みに震えていた。

「‥‥‥さむい‥‥」

体調が悪い時にはどんどん思考が悪い方向へと滑っていく。

「‥‥わたし‥‥このまま‥死んじゃうのかな‥‥」

「千尋」

突然聞こえた声にびっくりした千尋はがばっと起きあがった。

そして。

ふらぁ〜〜‥‥と立ちくらみ(座っているけど)を感じてそのまま倒れかかる。

布団に倒れる寸前、千尋の体は抱き留められた。

「起きなくてもいい。横になって」

ハクがのぞき込んでいる。

そのとたん、千尋は安堵したように息をついた。

「ハク‥‥」

何故か涙がボロボロこぼれてくる。

「泣かなくていい。私はここにいるから、とにかく横になりなさい」

千尋を寝かしつけてから、ハクは布団を元通りにかけた。

「‥‥何もしていないのか? リンは‥‥」

額を冷やしてもいないし、この分ではご飯も食べていない上に薬も飲んでいないのだろう。

「それで良くなる筈もない。ちょっと待ってて」

ハクはぽんぽんと布団を叩くとそのまま立ち上がり、何処かへと歩き去っていく。

千尋はそれを目で追っていたが、やがて姿が見えなくなった事で追うのをやめ、天井を見上げた。

‥‥ぐるんぐるんまわっている。

じっと見つめている事に疲れ、千尋はまた目を閉じた。




それから長い時間だったのか、短い時間だったのかはわからないが。

「千尋」

というハクの声で千尋は目を開けた。

「食べられるか?」

ハクが差し出して来たのは、木の器に入ったおかゆだった。

湯気がわずかに立ち上っているところを見ると、熱くないようにさましてくれたらしい。

しかしそれを見ても、全然食欲はわかなかった。

申し訳ないと思いつつ、千尋は首を微かに横に振った。

「‥‥ごめん‥‥今欲しくない‥‥」

そう言われると思ったのか、ハクは「そう」とだけ言っておかゆを引っ込めると、次にコップに入った水っぽいものを差し出して来た。

「こっちは飲まなきゃ駄目だ」

「‥‥くすり?」

ハクは頷くと千尋の背中に腕を回して体を起こした。

とてもじゃないが体に力が入らず、ハクに支えて貰わないと起きている事すら出来ない。

「少し苦いけど良く効くよ」

その水っぽいものをよくよく見ると、なんかすごい色をしているのが分かった。



青汁?

ニガダンゴの液体版?

そんな色をしている。

ちょっとコップを近づけられただけで青臭い匂いがしてきて、千尋はうっと詰まった。

「‥‥い、いい‥‥横になっていたら治るから‥‥」

熱がずっとあるのもつらいけど、これを飲めというのもかなりつらいものがある。

飲まずに済むのならば済ませたい。

「飲まなければ治らない」

半分脅すようなハクの物言いに、千尋はいやいやと首を振った。

「すっごく苦そう‥‥いや‥‥飲みたくない‥‥」

半泣きになって嫌がる千尋をハクは見ていたが――――やがて、良いことを思いついたといわんばかりに微笑んだ。

「それなら、無理にでも飲んで貰わなくてはね」

ぎく。

千尋は嫌な予感を感じて弱々しく暴れたが、そのくらいでハクの腕から逃げられる筈もない。

「おとなしくしなさい」

いきなり布団の上に転がされて、片手で押さえつけられてしまった。