ミエナイココロ
.5

R指定じゃないですが、何となく雰囲気がアダルトなので
隠してみました(笑)。








千尋の体は完全に冷え切ってしまっている。

体が何とか体温を取り戻そうとしているが、意に反してますます体温は下がっていく。

がたがたと小刻みに震え、うわごとのように「さむい」を繰り返す千尋に、ハクは泣きたいような心地だった。



こんな時に、自分の魔法は何一つ役立たない。

川を取り戻したい一心で学んだ魔法は、今は千尋を守るための魔法となった。

なのに自分が覚えた魔法は、どれをとっても今の千尋を助けるものにはならない。

自分の無力さが悔しい。

こんなにも千尋を大切に想っているのに、何もしてあげられない。





木々が用意してくれた寝床は温かく、まるで春の陽気のような日溜まりがそこにあった。

しかしそこに寝かされた千尋はかたかたと震えている。

このままでは、千尋が失われる。


いやだ

――――絶対に、いやだ!



ハクは自分の上着を脱いで上半身裸になると、千尋の服も脱がせ始めた。

人の体温を取り戻す手っ取り早い方法はこれしか思い浮かばない。




水に濡れて重くなった服をすべて脱がせ終わると、ぐったりとした千尋の体を抱き寄せる。

ひんやりとした肌の感触に一瞬身震いするが、そのままぎゅっと自分の胸に抱き込む。

「――――千尋‥‥」

肌はひんやりとしているのに、その吐息は熱い。

ふと、千尋の髪で光っている紫色の髪留めに気づき、そっとその髪留めを外す。

ふぁさ‥‥と散る千尋の髪を撫で、ますます強く抱きしめる。





「‥‥ん‥‥」

千尋が何か言葉を発するたびに、ハクはびくっとして千尋を見下ろした。

しかし、千尋は固く目を閉じたまま。

何度こうやって千尋の様子をうかがったことだろう。

元気でくるくるとよく表情が変わる千尋からは考えられない、硬質な―――まるで人形のような顔。

「早く目をあけてくれ‥‥‥千尋‥」

乾き始めた髪を撫で、ハクはそっと千尋の頬に口付けを落とした。




どのくらいそうしていたのか。

ハクはふと、千尋の腕が自分の腕を弱々しくつかんでいるのに気がついた。

「千尋?」

ハクが千尋の指に自分の指を絡めると、千尋はそれに反応して――――まるでハクを求めるかのようにきゅっと握りしめてくる。

千尋の息づかいが、少し落ち着いてきている。

額を合わせると、熱もさきほどよりも下がってきているのがわかった。

――――良かった。

ハクは千尋から身を離し、ほぅ‥‥と人知れず溜息をついた。

千尋の意識が戻るまでは、まだ安心出来ない。

しかし、峠は越えたと思っていいだろう。


今度は寒くないようにと服を着せて(服は木々のおかげか、すっかり乾いていた)、もう一度寝床に横たえる。

ハクは千尋の枕元に座り、何度も優しく髪を撫でた。


どこかですれ違ってしまった想いを取り戻したい。

ちょっとの落ち度で千尋を失ってしまうということだけは、絶対に御免だ。



――――早く


――――早く目をあけて




待っているから、千尋。