ミエナイココロ
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トンネルの前。 いて欲しいと願った少女の姿は、ない。 ここに千尋がいなかったら、ハクにはもう何処にも探す場所がなかった。 何も知らない。 千尋が何が好きで、何処がお気に入りで――――そんな些細な事も、何も知らない。 「――――千尋!」 人間の姿に戻り、大声で叫ぶ。 雨に打たれるのもかまわず、ただ名前を呼ぶ。 「―――――――千尋っっっ!!」 名を呼びつつ、無意識に森の中に入っていったハクは――――ふっと視線を木々に向けた。 「え‥‥‥?」 木々が、話しかけてくる。 人間には聞こえない声で。 ハクには聞こえる声で。 ――――そなたが、求むる娘は、この奥に。 ハクに休む場所を提供してくれている老木が、優しい声でそうハクに教えてくれた。 奥に。 ハクはしっかりと頷いた。 「‥‥ありがとう!」 言われた通り奥へと進んでいく。 雨の中。 立ちつくす姿。 「――――千尋!!!」 ハクの声に、千尋が振り返る。 「ハク‥‥‥」 ハクが手をのばす。 それに応えようと手を伸ばした千尋は ―――――そのまま崩れ落ちた。 「千尋――――!!!」 絶叫して千尋に駆け寄り、抱き上げる。 千尋の制服は水を吸って滴が垂れるほどに重たくなっている。 が、この重さはそれだけではない。 「千尋‥‥千尋!」 頬を軽く叩くが固く閉じられた瞳があく事はなく、ハクの呼びかけにも返事は返らない。 いつからここにいたのだろう。 冷え切ってしまった千尋の体を抱きしめて、ハクはただ千尋の名を呼ぶしか出来なかった。 ――――主よ。尊き、川の神よ。 はっとその呼びかけにハクが顔をあげる。 ――――そのままでは人間の娘は本当に死んでしまう。 あの老木が、ハクに語りかけてきていた。 「‥‥そう、だ‥‥」 温めなければ。 このままでは、千尋が死ぬ。 千尋の姿を見たとたん動転して、そんな事にも気が回らなかった。 「どこか、身を休められるようなところはないか!?」 ハクの呼びかけに返事があった。 森の木々が雨や風の意に反してざわざわとざわめく。 ハクに道を指し示すように。 「‥‥ありがとう」 ハクは千尋を抱き上げると、木々が導くままにそちらへと歩いていった。 |
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