Sherman
その4
200000キリ番作品
出雲は近代化が進んでいるとはいえども、未だ日本書紀や古事記の色が濃く残る場所である。 黄泉の入り口、という看板がでかでかと出ているのを見た時にはさすがに苦笑してしまったが。 しかしその看板が偽りだらけでもないのを、ハクは感じ取っていた。 そう。この近くに黄泉へ向かう入り口がある筈なのだ。 ハクはふと足を止め、その社を見上げた。 「…………揖夜(いや)、神社………」 時を経た趣のある社。その近くに”流れ”を感じる。 「このあたりから、か………」 ハクは一つ息をつくと、その社をくぐるように歩みを進めた。 そして――――― 光がはじけた。 目を開ければそこは荒れ果てた大地。 緑の破片もなく、空はどんよりと薄暗い。 昼なのか夜なのかも良く分からず、霧のようなものが立ちこめていて視界が良く効かない。 ここが昔語りで語られる「黄泉比良坂」へと通づる道か―――― ハクはそう確信して、ともかくはと歩き出した。 どちらに行けばいいのかは分からない。 だが、歩んでいきさえすれば必ず会える――――という確信があった。 なぜなら、この場に来てようやく千尋の気配を感じ取れたから。 そして彼女がずっと肌身離さずつけているあのお守りの髪留めの魔力も―――――。 しゃらん…… 鈴の音が聞こえた。 「…………あなたが、菊理姫でいらっしゃいますか」 足を止め、そう呟いたハクの目の前で霧が晴れていく。 そしてそこには――――― 「……竜の子ですか。生きた身で黄泉比良坂まで降りるとは……よほど訳有りなのですね」 巫女姿の女性が一人。 咲耶の力で見せて貰った、あの巫女の女性に間違いなかった。 |