新婚さんいらっしゃい
その2

130000キリ番作品









次の日。

「‥‥‥‥千?」

坊がよろよろと歩いている千尋を見つけて、声をかけてきた。

「あっ、坊。おはよう‥‥っ‥‥イタタ」

腰をおさえている千尋を見て、坊が眉をひそめる。

「千、調子悪いのか?」

「あ、ううん‥‥大丈夫。平気」

不審がる坊を何とか丸め込んだ後、千尋は慌てて人影のないところまでやってきた。

そこで「はぁ」と溜息をつく。

この腰の痛みは今日一日は続くだろう。

その原因は何か、はイヤというほど分かっている。

でも、嫌いになれない。

「‥‥‥ハクのばか」

聞こえないように、そう小さく毒づく千尋であった。







仕事が終わり部屋へと戻ってきた千尋は、部屋の中に誰もいないのに首を傾げた。

結婚した‥‥という事で、千尋はハクと一緒の部屋をあてがわれている。

だから、当然ハクがいるものだと思って、半ば身構えて帰ってきたのだが‥‥‥。

ハクの姿はなかった。

「どうしたんだろ‥‥まだ仕事かな?」

とふと机を見ると、白い封筒が一枚。

どうやらハクの残した手紙のようだった。

カサカサ‥と開ける。




今日は湯婆婆からのお達しで外に出るから、一緒に夜を過ごせそうもない。

たぶん2、3日はかかると思う。

1人で寂しいだろうけど、その分からだを休めなさい。

良い夢を。

                                        ハク
                                              』


短い手紙だったが、千尋はふ‥っと胸が熱くなってきて、そっとその手紙を抱きしめた。

「‥‥もぉ。こういう時は優しいんだから‥‥」

そう呟いた時の千尋の顔は、リン達が見たら苦笑しそうなほどにとろけきっていた。






さて、またその次の日。

「‥‥? 千、どした?」

目を真っ赤にして現れた千尋に、リンが不思議そうに話しかけてきた。

どう見ても「寝不足です」といった表情の千尋は、

「‥‥だいじょーぶ」

と意識までも怪しい様子である。

「おい‥‥ハクは昨日いなかったんだから、ゆっくり眠れた筈だろ? どうしたんだ一体」

「‥‥‥‥‥‥‥」

千尋は答えない。

「おい、千!」

「‥‥その‥‥あんまり眠れなかったの。‥‥寂しくて」

「‥‥はぁ?」



つまり。

結婚してからというもの(結婚する前からだが)、夜は殆どハクと一緒という状態が普通になっていた。

独り寝は久しぶりで。

隣に他人の体温がないのがこれほどまでに寒くて寂しいものだというのを千尋は初めて知ったのだった。




「はぁ‥‥ごちそうさま」

「‥‥真剣なのに」

と言われても、未だ独り身のリンとしてはそう答えるしか出来ない。

「そんなに寂しいなら、女部屋に来いよ。千が寝るところくらいはあるから」

暫く考えて、千尋は「うん」と頷いた。

「行く。1人で寝てると寂しいから‥‥」

そう答えた千尋の表情には「女」の顔がかいま見えて。

ああ、千は結婚したんだな‥‥‥とそんな所で納得してしまうリンであった。














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