付喪神
その2
4周年記念作品
ハクはあの湯屋へ通じるトンネルのすぐ近くの森に住んでいる。 道から外れた茂みのなかをがさがさと歩いていく千尋の後から、ハルが辺りをきょろきょろと眺めながらついていく。 そうしてかなり森の奥へと入り込んだ処で、千尋がぴたりと足を止めた。 「ハク、いる?」 ざあっと風が通り、草や木々が音をたてる。 「―――初めて見る娘を連れて来てるね」 ハルがはっと後ろを振り返ると、そこにはハク―――ハルには人間離れした美貌の男性に見えた―――が立っていた。 「ハク」 「何かあったようだね……千尋がここまでその娘を連れてくるということは」 ハクが根城にしているこの森を、千尋は友人の誰も伝えていなかった。 伝える事でこの森を荒らされたら困るし、ここはハクと二人だけが知る秘密の場所という認識をしていたからでもあった。 だから千尋がここまでその少女(ハル)を連れて来た、という事は何か問題が起こったという事に他ならないと判断したのである。 「そうなの。話を聞いてあげてくれる?」 千尋がハルを促す。 「あっ、はいっ!」 それまでぼーっとハクに見とれていたハルは、慌てて背筋を伸ばしてハクに向き直った。 「あ、あの。私ハルって言います。その、バロンの事で……」 バロン、という名を聞いてハクの表情が引き締まる。 「詳しく聞かせて貰おうか」 話を聞き終わったハクは、千尋とハルとを見比べた。 「ともかくその空間まで行ってみないと何とも言えないけど……空間が繋がらなくなっているのは確かだろうね」 「何とかなりますか?」 「実際に見てみた方がいいだろう。そこまで行ってみよう」 きびすを返して歩き出したハクの後を、千尋が慌てて追う。 「ハルさん、早く早く!」 「ま、待って!」 こういう森を歩き慣れないハルが、その後を追って歩き出した。 十字街にさしかかり、ハルは気配を感じてふと振り返った。 「あ……」 ムタが後を軽快な足取りで追ってきている。 今は人通りも多い為、ハルに話しかけずに後ろを追ってくるつもりらしい。 「ムタも心配しているようだね」 「だね」 万が一にも彼に聞こえると後で怒られそうなので、ハクと千尋はそんな事をひそひそと話し合う。 どうやらムタには聞こえなかったようで、悠々とした様子でハルの後をついてきていた。 「もうすぐ、猫の事務所へ繋がる空間に出る筈なんだけど……」 ハルが言う通り、ハクも覚えがある通りが見えて来た。 だが。 「……繋がっていないな」 通りへと繋がる筈のアーチ前まで来て、ハクは立ち止まった。 「道が閉ざされてるのかな」 「いや……」 アーチへ触れ、ハクはじっと通りの向こうを見透かすように視線を向けた。 「道は完全に切れてはいない―――だが、何かが邪魔しているという感じがする」 「何が邪魔してるってんだ」 低い声にハルがぎょっと振り返る。 「ム、ムタさん! まだ人が沢山いるとこなのに!?」 ムタが二本足で立ってじっとアーチを見つめていた。 「今人はいねーから構やしねぇよ。で、どうなんだ?」 暫くじっとアーチの向こうを見つめていたハクは、ふっと振り返った。 その場に立つ千尋、ハル、ムタをじっと見つめる。 「この辺りに骨董屋とか博物館とか、そういう類のものを置いている場所が出来てないかな」 「骨董屋……?」 千尋が首を傾げる隣で、ハルが「あっ!」と声をあげた。 「そういえば、この通りの一つ向こうに出来てる! 骨董品を扱うお店!」 「良く知ってんな」 ムタがハルを見上げるとハルは「うん」と頷いた。 「この前通りかかった時、窓際にアンティークの人形を置いてて可愛いなぁと思って見てたの。だから覚えてたんだ」 「人形」 ハクが声をあげる。 「ハク……もしかして?」 「もしかしなくてもそうだよ、きっと」 「私、案内出来る。こっちよ」 ここに来た時とは違い、今度はハルの方が先導するように歩き出す。 その後を3人(2人と1匹)が追うように歩き出した。 |